顎関節症とは?―現代医学・東洋医学・鍼灸医学からみる原因と対策
「口を開けると顎が痛い」「カクカク音がする」「口が大きく開けにくい」「朝起きると顎が疲れている」――このような症状がある場合、**顎関節症(がくかんせつしょう)**が関係していることがあります。
顎関節症は、単に顎の関節だけに起こる問題ではありません。顎を動かす筋肉、歯の食いしばり、首や肩の筋緊張、姿勢、ストレスなど、複数の要素が関係して症状が現れることがあります。
今回は、顎関節症について「現代医学」「東洋医学」「鍼灸医学」の3つの視点から解説します。
顎関節とは
顎関節は、耳のすぐ前にある関節です。
下顎の骨である「下顎頭」と、頭蓋骨の「側頭骨」との間にあり、その間には**関節円板(かんせつえんばん)**と呼ばれるクッションのような組織があります。
口を開けるときには、下顎頭が単純に回転するだけではなく、前方へ滑るように動きます。
この複雑な動きを、
咬筋
側頭筋
内側翼突筋
外側翼突筋
などの咀嚼筋が調整しています。
そのため、関節そのものに大きな異常がなくても、咀嚼筋が緊張することで顎の痛みや開けにくさが起こることがあります。
顎関節症の主な症状
代表的なのは次のような症状です。
顎関節やその周囲が痛む
食事をすると顎が痛い
口が大きく開かない
口を開閉するとカクッ、パキッと音がする
顎が引っかかる感じがする
朝起きると顎が疲れている
頬やこめかみが張る
頭痛を伴う
首や肩がこる
顔の左右に違和感がある
なお、顎関節から音がするだけで痛みや運動障害がない場合には、必ずしも治療を必要とするとは限りません。 顎関節のクリック音は健康な人にもみられます。
現代医学からみた顎関節症
現在、顎関節症は一つの原因だけで起こる病気というより、さまざまな要因が複合して発症する病態として考えられています。
大きく分けると、
① 咀嚼筋の問題
咬筋や側頭筋などが過緊張を起こし、筋肉そのものに痛みが出るタイプです。
特に、
食いしばり歯ぎしり長時間の緊張ストレス
などが関係することがあります。
「普段、上下の歯を接触させている」という方も少なくありません。
本来、リラックスしているときには上下の歯はわずかに離れているのが自然です。
無意識に歯を接触させ続けていると、咀嚼筋が長時間働き続けることになります。
② 顎関節や関節円板の問題
顎関節の内部には関節円板があります。
何らかの理由で関節円板と下顎頭の動きがうまく協調しなくなると、
「カクッ」
というクリック音が出たり、顎が引っかかったりすることがあります。
さらに動きが制限されると、口が十分に開かなくなることもあります。
③ 顎関節の炎症・変形
関節に炎症が起こったり、変形性関節症などによって関節面に変化が生じたりする場合もあります。
特に、
「顎を動かすと関節の奥が痛む」
という場合には、筋肉だけではなく関節そのものが関係している可能性があります。
ストレスと食いしばり
顎関節症では、心理的ストレスや生活上のストレスも無視できません。
緊張しているときに、
「気づいたら奥歯を噛みしめていた」
という経験のある方もいるでしょう。
ストレス → 食いしばり → 咀嚼筋の緊張 → 顎の痛み
という悪循環が起こる場合があります。
現在の研究でも、顎関節症の発症や慢性化には、身体的要因だけでなく心理社会的要因や痛みの感じ方など複数の要素が関係すると考えられています。
首・肩こりと顎関節症
顎関節症の方では、首や肩のこりを同時に訴えることもあります。
顎の筋肉と首の筋肉は別々に存在しているわけではありません。
咀嚼筋、舌骨周囲筋、胸鎖乳突筋、後頭部の筋肉などは、頭部や下顎の位置を保つために相互に働いています。
たとえば長時間のスマートフォンやパソコン作業で、
頭が前へ出る↓首・肩の筋肉が緊張する↓下顎周囲の筋肉にも余分な緊張が加わる
ということがあります。
そのため顎の症状を考える際には、顎関節だけではなく、頭・首・肩・姿勢まで含めて評価することが重要です。
頭痛との関係
顎関節症では、こめかみ付近の痛みや頭痛を伴うことがあります。
側頭筋は咀嚼筋の一つで、こめかみから下顎に付着しています。
食いしばりなどによって側頭筋が過緊張すると、
「顎が悪いと思っていなかったけれど、いつもこめかみが重い」
という症状として現れることもあります。
顎関節症に関連する頭痛は、医学的な顎関節症の分類にも含まれています。
東洋医学からみた顎関節症
東洋医学では「顎関節症」という現代医学と同じ病名から治療を決めるのではなく、
痛みの性質,発症の経過,体質,精神的緊張,睡眠,冷えや熱,全身状態
などを総合的にみて考えます。
顎周囲には、
足陽明胃経
手陽明大腸経
足少陽胆経
手少陽三焦経
手太陽小腸経
など複数の経絡が関係しています。
特に顎関節周囲には、**下関(げかん)・頬車(きょうしゃ)・聴宮(ちょうきゅう)・翳風(えいふう)**などの経穴があります。
東洋医学的には、症状によっていくつかの状態を考えます。
気滞・肝気鬱結
精神的ストレスや緊張によって「気」の流れが滞った状態を、東洋医学では**気滞(きたい)**と表現します。
特に肝の疏泄作用がうまく働かない状態を**肝気鬱結(かんきうっけつ)**といいます。
イライラしたときに顎を噛みしめる、肩に力が入る、ため息が増える、といった状態は東洋医学的な「気の停滞」という考え方とも関連づけて捉えることがあります。
瘀血
長期間同じ場所に強い痛みが続く場合には、東洋医学では**瘀血(おけつ)**という状態を考えることがあります。
特徴として、
痛む場所が比較的はっきりしている
刺すような痛み
慢性化している
同じ場所が長く痛む
などがあります。
顎関節症が長期化している場合には、気の停滞だけではなく血の巡りも考えて弁証します。
風寒・寒凝
冷えると顎の痛みやこわばりが強くなり、温めると楽になる場合には、東洋医学では「寒」の影響を考えることがあります。
このような場合には、局所だけでなく全身の寒熱の状態も確認します。
鍼灸医学からみた顎関節症
鍼灸施術では、単に「顎が痛いから顎だけに鍼をする」という考え方ではありません。
まず、
顎関節の動き、咬筋、側頭筋、首・肩の筋緊張、頭部の位置、左右差、食いしばり、睡眠、ストレス、全身状態
などを確認します。
そのうえで状態に応じて施術を組み立てます。
顎周囲の筋緊張へのアプローチ
顎関節症、とくに筋肉性の症状では、
咬筋
側頭筋
翼突筋周辺
胸鎖乳突筋
後頭下筋群
僧帽筋
などの過緊張がみられることがあります。
鍼やあん摩・マッサージなどを用いてこれらの筋緊張を調整し、顎を動かしやすい状態を目指します。
局所と全身の両方をみる
鍼灸では、
下関、頬車、翳風
など顎周囲の経穴だけでなく、体質や症状に応じて、
合谷、太衝、内関
など離れた部位の経穴を組み合わせることがあります。
これは東洋医学における経絡や全身状態を考慮した治療方法です。
使用する経穴は、患者さんの状態によって異なります。
「鍼をすればすべての顎関節症が治る」
というものではありませんが、咀嚼筋の緊張や疼痛、首肩の筋緊張などを伴うケースでは、保存的治療の一つとして鍼灸を検討する余地があります。
顎関節症は「顎だけ」をみないことが大切
顎関節症では、
顎歯・噛みしめ、咀嚼筋、首・肩、姿勢、睡眠、ストレス
が互いに影響していることがあります。
そのため、
「顎が痛いから顎だけを治療する」
のではなく、その人の生活背景まで含めて原因を探していくことが大切です。
特に、
ストレス → 食いしばり → 咬筋・側頭筋緊張 → 顎痛 → さらに食いしばる
という悪循環が成立している場合には、筋肉の施術だけではなく、生活習慣や食いしばりへの対策も重要になります。
自宅で気をつけたいこと
症状があるときには、
硬いものを長時間噛み続けない
ガムを長時間噛まない
大きく口を開け過ぎない
頬杖を長時間つかない
日中の食いしばりに気づく
スマートフォンを見る姿勢に注意する
顎や首肩を適度に休ませる
などを意識してみましょう。
温めたり、無理のない範囲で顎を動かしたりする保存的なセルフケアも一般的に用いられます。顎関節症では、まず身体への負担が小さく元に戻せる保存的な治療から始めることが推奨されています。
医療機関を受診した方がよい場合
顎の痛みのすべてが顎関節症とは限りません。
次のような場合には、歯科・口腔外科などの医療機関での評価をおすすめします。
強い痛みが続く
急に口が開かなくなった
顎が閉じなくなった
顔や顎が大きく腫れている
発熱を伴う
転倒や事故などで顎を強く打った
噛み合わせが急に変化した
歯や歯茎に強い痛みがある
症状が徐々に悪化している
必要に応じて、レントゲン・CT・MRIなどで顎関節や関節円板の状態を確認する場合があります。
鍼灸マッサージ青風堂では
鍼灸マッサージ青風堂では、顎関節周囲だけでなく、
咬筋・側頭筋・首・肩・姿勢・全身の緊張状態
なども確認しながら施術を行います。
現代医学的な筋・関節の状態と、東洋医学的な気血・臓腑・経絡などの状態を合わせてみながら、その方に適した施術を考えていきます。
顎の痛みだけでなく、
「食いしばりが強い」「首や肩もいつも凝っている」「仕事中は無意識に力が入っている」「朝起きると顎やこめかみが疲れている」
といった症状がある方も、一度ご相談ください。
症状によっては歯科・口腔外科などでの検査や治療を優先し、必要に応じて医療機関と併用しながら鍼灸・あん摩マッサージ施術を行うことも大切です。



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